JR黒崎駅から徒歩15分ほどの閑静な住宅街の中に、予約の絶えない美容室がある。
「hair design tricot」
オーナーが働く場所を変えても、23年間ついてくるお客様。
祖母、娘、孫と三世代で通ってくるお客様。
家族総出でやってくるお客様。
「腕一本で人生をつくれる」というオーナーの濱本さんに、美容師という仕事の魅力、独立までの経緯を聞いた。
hair design tricotオーナー:濱本陽介さん
腕一本で人生をつくりたい。美容師への道
JR黒崎駅から徒歩15分ほどのところにある 「hair design tricot (ヘア デザイン トリコ)」。
2022年5月にオープンした新しいお店にもかかわらず、すでに予約の途切れない人気店になっている。
人気を支えるtricotのオーナー、濱本さんは「高校生の時に美容師を目指した」という。
「人と話すことやものづくりが好きでした。まだ漠然としていましたが、おもしろそうと思いました」
濱本さんの実家は建築の仕事を営んでおり、小さな頃からものづくりを間近に感じていた。
「木の端切れをハンマーで打って家具みたいな物を作ってみたり、絵を描いてみたり。手にはいつも血豆ができていました」
楽しそうに話す濱本さんが美容師に興味を持った理由はもう一つある。
「最終的に自分でお店を持つことができる。腕一本で自分の人生をつくることができるだろう」
美容学校を卒業し、黒崎駅至近の百貨店にあった美容室で働き始めると、その直感は的中した。
「あ、やっぱりこんなに楽しんだ。この道を進もう」
まだカットができないアシスタントだったが、「シャンプーが気持ちいい」とお客様の喜びが直に伝わってくることが嬉しかったという。
初めてのご指名。ダメ出ししながら育ててくれたお客様
やがてスタイリストとしてカットができるようになると担当を持つようになった。
初めてご指名をくださったのは、当時34、5歳の女性。
「パーマをかけたら、次の来店時に『スタイリングしにくかったから、今度はこういうパーマがいい』といわれました。若い頃はこうやってダメ出しをしつつ、僕を育ててくれたお客様がたくさんいらっしゃいました。ありがたかったですね」
少しでもうまくなって喜んでもらいたい、という思いで腕を磨いていった濱本さん。
「『スタイリングしやすかった』といって戻ってきてくれるのが、やっぱり美容師でよかったと思う瞬間です」
濱本さん自身が30代を迎えると、ミセスを担当することも増えた。
「『前の担当者はこうしてくれた』と、自分が知らないことを教えてくださるお客様もいて、新たな技術を身につけることができました」
美容師として乗り越えないといけない壁
担当のお客様を着実に増やしていった濱本さんは、部下を持つようになる。
「人を育てること」について聞くと、謙虚な様子で次のように答えてくれた。
「僕自身が、素直であること、誠実であることを心がけています。だから相手(部下)にもそういう気持ちでいてほしいと。まずは教えたことを素直にやる。それができてからオリジナルを考えなさい、というようなことは伝えてきました」
ただ、教えたことを実践するにはその環境が必要。
その点も「お客様に助けられた」という。
「『ここで(部下に)教えながら、一緒に乾かしていいですか?』とお客様に許しをもらい、リアルで教える機会を得られました」
若いスタッフの中には緊張や不慣れで、目上の方、年上の方とお話ができない人も多い。
「失敗しても大丈夫。リカバリーは僕がするから、お話をしてみて」
こうして技術以外にも美容師として乗り越えないといけない壁を、お客様との協力を得ながら越えていった。
背中を押されて決意した独立
美容師として25年目、濱本さんに転機が訪れる。
「30代から独立したい、という思いを抱くようになっていました」
最終的に独立を決意したのはやはり、お客様たちの存在だったという。
実は15年ほど黒崎駅近くで働いたのち、会社の都合で小倉に異動した濱本さん。
それでもお客様の多くが濱本さんを追って、小倉まで通ってきてくれた。
「『遠くなったけど、やっぱり行く』といって。そのうちお客様方が異口同音に『独立したら?』と後押ししてくれました。それで『独立していいんだ』と」
小倉に異動して約10年後、美容師として一歩を踏み出した黒崎でお店を持つことに決めた。
お客様のなりたいスタイルに技術で応える仕事
オープンすると、お店は贈られたお花であふれた。
それも濱本さんが一貫して「一番はお客様」という姿勢を貫いてきたからだろう。
「お客様がしたいスタイル、なりたい姿を実現できるよう技術で応えるのが僕の仕事です」
もしも、プロから見てお客様には似合わないオーダーが来たらどうするのか聞いてみた。
「『それをするとこうなります』と正直に伝えます。ただ僕自身を押し付けない。スタイルがどうであれ、お客様が望むならそれでいいし、それに見合う技術を提供したいと思います」
最大級の賛辞「もう好きにして」
独立してよかったことの一つは、技術を磨けるチャンスが増えたということ。
「お客様に合わせてパーマ剤、カラー剤、スタイリング剤、ヘアアイロンなどを使えるようになりました。自分で調べて、勉強して、試せるのが楽しいですね」
濱本さんが新たに手に入れた技術を、喜んで試してくれるお客様も多いという。
「新しいカラーを試したりすると、次に来た時に『色の変化がどうだった』とお客様の方が研究してくれるくらいです」
一方で、濱本さんの専門的な技術をお客様が日常の中で再現できるようにという意識も忘れない。
「ここ(tricot)でスタイリングするというのは非日常。だからお客様がそれをできるだけ日常でキープできるように。ご自身でスタイルしやすいようにと考えます」
こうして常連のお客様から発せられる「もう好きにして」というオーダーは、信頼を積み重ねた何よりの証拠だろう。
美容師という仕事の魅力はお客様との一期一会
日々仕事が楽しいと思う濱本さんが今唯一抱える悩みは、お客様に「予約が取れない」といわれることだという。
「申し訳ないなと思います」
そういっているそばから予約の電話がかかってきた。
お客様の要望に応えるため、スタッフが入ることについてはどう考えているのだろうか。
「いるとありがたいなと思います。何より、美容師免許があれば困らない。腕一本で食べていけること、自分で道を切り拓けることを伝えたい」
それ以上に、美容師がいい仕事だと言い切れる確信がある。
「美容師の仕事はお客様とのライブ。喜んでくれてるな、やべーなと、こんなにもお客様との関係性が築ける仕事はないと思います。プライベートな部分も話をしてくださるなど、本当にいい仕事です」
店名の「tricot」はフランス語の「編み物」を掛けたという。
「サロンとして発展し、お客様が何かあった時に『あそこ紹介できますよ』と(糸が交差して作り上げられる)編み物のように様々なところをつなげる存在になったらうれしい」
濱本さんのお客様と世界を紡ぐ旅は始まったばかり。
(取材日2023/1/6 阿部由貴)
企業情報
屋号 | hair design tricot(ヘア デザイン トリコ) |
設立 | 2022年5月 |
代表者名 | 代表 濱本陽介 |
事業内容 | 美容室 |
所在地 | 〒806-0024 |
電話番号 | 093-982-0982 |