自分のパンがお店に並ぶ。社長になったつもりで他にないサービスをつくってみる|AGURAホールディングス

ちょっと想像してみてください。

自分の大好きなパン屋に、あなたが考えた世界で一つのパンが並んでいたら、どんな気持ちになるでしょうか?

しかも、そのチャンスが入社1ヶ月ほどで手に入るかもしれないとしたら?

福岡県や山口県で高級食パン専門店「奇人と変人」、総合ベーカリー「BAKERY&CHANDELIER Eccentric」を展開するAGURAホールディングス。

小倉の居酒屋から始まり、アメリカ進出まで果たした奇想天外な会社の根幹にあるのは「唯一無二へのこだわり」。

そんなAGURAホールディングスは今、福岡市内で新たな店舗展開を進めている。

常に挑戦を忘れないAGURAホールディングス社長と現場の橋渡しを担うディレクターに話を聞いた。

 

話を聞いた人

AGURAホールディングス株式会社ディレクター:川端知(かわばた さとる)さん

日本の美味しい料理をアメリカに持っていきたい

AGURAホールディングスのオーナー、Max Kawabata氏(以下、Kawabata氏)の人生は食と共にある。

Kawabata氏は福岡県の築上町で洋食店を営む家に生まれた。

実家はかつて築上町にあった評判の飲食店「ウッドハウス」

地元の人々に愛される人気店の2階に住んで育ったKawabata氏にとって、飲食業は最も身近な仕事だった。

とはいえ、この時点では「家業を継ぐ」と強く意識はしていなかったという。

しかし学生時代にアメリカへ留学したことで、飲食の世界に足を踏み入れることになる。

「現地で食べた日本食が、日本食と呼ぶにはあまりにも残念で、衝撃を受けた。『日本の美味しい料理をアメリカに持っていきたい』と」

しばらくして実家の飲食店が、高齢のため閉店を考えていることを知り、引き継ぐことを決意。

ただ、一筋縄ではいかなかった。

「スタッフは長年勤めてくれた飲食業のプロフェッショナルたち。そこにヒョイッと入ってきた若いオーナー息子のいうことなど聞いてくれない」

実力で示すしかないと考えたKawabata氏は「今、月商200〜300万円の売上を2倍にする!」と宣言。

結果、4倍という実績を上げ、みんながついてくるようになったという。

ショップカードは今も大切にとってある

いっつもエプロンをかけている社長

その後、北九州の中心地、小倉で「かくれ伽ダイニング 胡座」を開業。

3階建の全200席でも予約が取れない人気店となった。

料理、当時としては珍しい個室中心の客席、お店の雰囲気への評価はもちろんだが、口コミサイトに並ぶのはスタッフへの評価。

厨房の雰囲気が接客でも出てくる

“本当に気がつく方ばかり”
“接客も感じがよかった”
“テキパキしていて気持ちがいい”

スタッフへの評価こそ、AGURAが掲げる理念の一つ「NOと言わないサービス」を体現している証拠だろう。

「『できません』と言うのは簡単。できないんだったらできることを考えて提案する。一人一人が社長でいてほしい」

しかし、実際に体現するのは簡単ではない。

それでもAGURAが実現できているのは、Kawabata氏が現場で見せているからだろう。

「社長のKawabataは現場主義。いっつもエプロンをかけていて、エプロンをかけたまま事務所に来ます。できないんだったらまずは自分がやってみせる、それを諦めない人です」

常に最前線の社長・Max Kawabata氏

アメリカでの挫折と栄光

胡座で成功を収めたKawabata氏は満を持して「胡座USA」を掲げアメリカに進出したものの、リーマンショックの煽りを受けあえなく失敗。

「このままでは帰れない」とアメリカで築いた人脈から「IKEMEN HOLLYWOOD」というつけ麺屋を始めたところ評判に。 

ロサンゼルスの地で鰹節をはじめ日本の食材を活かしながら、「ジョニー・ディップ」「ジュラシック・ポーク」などアメリカ人が喜びそうなアイデアメニューを次々と開発。

看板メニューの「ジョニー・ディップ」

ハリウッド映画業界の有名人にも受け入れられ、繁盛店になった。

のちに新横浜ラーメン博物館史上初の“逆輸入ラーメン”として、日本でも知られるようになる。

IKEMEN HOLLYWOODのメンバー

古民家 胡座イタリアンの誕生

事業が好調だった折、Kawabata氏の地元にほど近い行橋で、築435年の歴史を持つ古民家が取り壊されるという話が耳に入る。

江戸時代初期に建てられた古民家は40年ほど前に移築され、行橋で誰もが知る懐石料理店となった。

その後懐石料理店のオーナーがご高齢となり閉業、いよいよ取り壊されることになったという。

話を聞いたKawabata氏は「街のランドマークである古民家を守りたい」と交渉。

「古民家 胡座イタリアン」として新たなスタートを切ることとなる。

石川県で生まれた築435年を超える古民家

「唯一無二の古民家に、他にないメニューを」と行橋でなかなか食べる機会のないロブスターをお店の看板メニューにすることに。

地元の食材もふんだんに使い、旬のものを大切にした。

そして「古民家 胡座イタリアン」もすぐに大人気店となる。

「AGURAのお客様は美味しいものが好きな方が多いのはもちろん、唯一無二であることを楽しんでくれる方が多い」

という。

高級食パン専門店 奇人と変人

居酒屋からレストランを展開して女性のお客様が増える中、Kawabata氏はまた「お客様が喜ぶものってなんだろう」と考えた。

そこで出た答えがベーカリーだった。

レストランで自家製のパンを出したいという想いがあったことに加え、世の中はちょうど高級食パンブーム。

そんなことを思っているとテレビでベーカリープロデューサー岸本拓也氏のことを知る。

岸本氏の「パン屋で街を明るく」というコンセプトに共感したKawabata氏は、翌日には岸本氏の会社に連絡。

岸本氏側からの返信を待つこと2週間。

「明日、熊本のセミナーに岸本氏が来ます」の文字を見て、迷わず飛んでいったKawabata氏はその日のうちにプロデュース契約を結んで帰ってきた。

「奇人」はのちに誕生する総合ベーカリー「エキセントリック」の語源となる

2019年「高級食パン専門店 奇人と変人」を始めるとこれまた瞬く間に大人気店に。

行橋本店はもちろんのこと、全国のパンフェスに呼ばれて出店すれば、持って行ったパンが30分で売り切れるなど大盛況。

ベーカリーを始めたことは事業拡大だけでなく、会社の若返りにも大きく寄与してくれたという。

「若い人の入社が増えて、定着してくれるようになった。何よりみなさんやっぱりパンが好きで、パンの話をしてる時って笑顔なんですよね」

パン好きの若いスタッフが増えた

ピンチをチャンスに変える。大ヒット「フルーツサンド」の誕生

ベーカリー事業がこれからという矢先の2020年、新型コロナウィルス感染症により飲食業界は窮地に追い込まれる。

しかし、このピンチすら新商品誕生のチャンスとなった。

「巣篭もりで多くの人がストレスを抱えている中、何かできることはないかと考えました。その頃、フルーツサンドブームの始まりの時期だったのですが、パンの品質が微妙という声も聞いていたので、『奇人と変人』のパンでフルーツを挟んでみよう、と」

大人気の食パンに新鮮なフルーツをたっぷり

予想は見事に的中。

地元、行橋・京築地区のフルーツをたっぷり挟んだ『奇人と変人』のフルーツサンドは多くの人に喜ばれ、1日200〜300個売れる大ヒット商品となった。

さらにピンチはもう一つのチャンスを生む。

山口県周南市の医師から、注文が入ったことだった。

「医療逼迫で疲れているスタッフたちに、パンを差し入れたい」

すぐに330本のパンを用意して、行橋市から周南市まで車で届けた。

これが縁で後に、周南市に「徳山駅前店」がオープンすることになる。

“世界初”シャンデリアのあるベーカリー店

ベーカリー事業が好調な中、繰り返される行動制限や自粛の波。

「時代が急速に変わりゆく中、胡座をどうするか?」

熟慮の末、小倉の「かくれ伽ダイニング 胡座」を閉店し、業態変更することを決めた。

「居酒屋、イタリアン、パン屋で培った経験を活かして、胡座の料理を合わせた惣菜パンを提供する総合ベーカリーをしようとなりました」

ただ、ここでもKawabata氏の「他にないものをやりたい」が発動。

そうして世界初のシャンデリアのあるベーカリー店「BAKERY&CHANDELIER Eccentric(ベーカリー アンド シャンデリア エキセントリック)」が誕生した。

パンもシャンデリアも買える世界初のベーカリー

入社から1〜2カ月で自分のアイデアが商品として並ぶ

エキセントリックでは30年戦士の料理長から、20代、30代の若手まで多様な人材が活躍する。

実際、エキセントリックの店舗に行けば若いスタッフがイキイキと、テキパキと動いているのがわかる。

その秘密は何か探っていると、一つ答えが見えてきた。

「若いスタッフでも比較的自由に企画を出すことができます。ここにある商品も日々現場が試作して生まれたもの。いいものはどんどん商品化します」

エクセントリックのメニューは個性豊か

入社からわずか1〜2カ月で、自分が考えたアイデアが商品として採用されることもあるという。

「Kawabata氏も現場の思いをのせた商品ができた時がとてもうれしいみたいです。アイデアの大枠はKawabata氏の提案でも、最後の商品化は現場に任せています」

こうしたやり方の根底にあるのはやはり「NOと言わないサービス」。

この言葉は決して「できないことを無理してやれ」という意味ではない。

「どこまでならできるか。考えることをやめなければ何かが生まれる。それによってお客様が喜んでくださる時に達成感を感じられる」

総合ベーカリー1号店はJR門司駅近くの海が見える通りにある

厳しいコメントは会社へのコメントして改善する

人気店ゆえの苦悩もある。

特にインターネット全盛期の昨今、厳しいコメントが寄せられることもある。

「いいコメントを頂くのは当たり前。厳しいコメントこそ改善できることをしていこう!と。仮に個人を特定するようなコメントがあっても、それは会社でもらったコメントとして受け止めて、一つ一つ応えていこう!と伝えます」

社長の唯一無二のアイデアを形にするために動くディレクターの川端知さん

いいことも、厳しいことも“チーム”で受け止められるからか、スタッフの紹介で入社してくるケースも多いという。

「どの店舗のスタッフも『いい人に恵まれてる職場』といってくださいます。いい方が集まって、現場がいいチームワークを作っている。どのお店もいいスタッフがいるから続けられています」

次はまたどんな“他にないもの”を見せてくれるのだろうか。

(取材日2022/12/22 阿部由貴)




企業情報

会社名AGURAホールディングス株式会社
設立2002年9月
代表者名代表取締役 川端 康正
事業内容ベーカリーの製造販売、飲食店の運営
所在地

【古民家 胡座イタリアン】
福岡県行橋市北泉4-39-1

 

【高級食パン専門店 奇人と変人】
行橋本店:福岡県行橋市北泉4-39-1
徳山駅前店:山口県周南市本町1-26-1アルク
防府店:山口県防府市天神1-10-42

 

【BAKERY&CHANDELIER Eccentric】
門司店:福岡県北九州市門司区大里本町3-11-1
九大伊都店:福岡県福岡市西区九大新町5番(九大伊都 蔦屋書店内) ※2023年春オープン予定

電話番号0930-55-6631
ホームページhttps://agura.info/

担当 川端知(かわばた さとる)さんより

オープニングスタッフは特に仲良くなりやすく、長く働いていただけることが多いです。新規オープン店はもちろん、既存店もお気軽にお問い合わせください。