【求人】DXに育成計画。新しい家具職人の働き方を福岡から|株式会社イデア(北九州市小倉北区)

「家具職人」と聞いたら、どんなイメージがありますか?

寡黙? 頑固? 厳しい?

そんなイメージを打ち壊すようなオーダー家具製造会社が福岡県北九州市にある。

1年間の休日スケジュールが事前にわかり、仕事の計画も数ヶ月先まできちんと立てられているから、予想外の休日出勤はほとんどない。

タブレット端末やアプリの導入、若手社員の育成計画策定など、これまでの業界では考えられなかったことにも挑戦する。

そこには、家具製造業界への危機感と人間の可能性を信じる思いがあった。

試行錯誤の真っ只中にある株式会社イデアの社長と、そこで働く家具職人たちに話を聞いた。

話を聞いた人

株式会社イデア 代表取締役:権藤基喜(ごんどう もとき)さん

ゼネラルマネジャー:下木洋介(しもき ようすけ)さん

工場長:西本貴吉(にしもと たかよし)さん

プロダクトマネージャー:梅本尚(うめもと ひさし)さん

設計主任:上水流勇太(かみずる ゆうた)さん

主任:竹藤多加士(たけふじ たかし)さん

飽き性なのに家具作りは続けられる秘密

大きな木製扉をドキドキしながら開けた瞬間、飛び込んできたのは木くずの優しい香り。

初めて訪れたのに、懐かしい気持ちにさせてくれるから不思議だ。

中では黙々と作業する職人たち。一つひとつ丁寧にパーツを固定しながら、組み合わせているのは主任の竹藤さん。

「個室ブースの内部に設置するベンチを組み立てています。今年から自分が任されている仕事なんです」

この道22年のベテランだが、最初は建具屋さんで働いていたという。

「やっぱりモノを作る仕事をしたいなって思いました。物心ついた頃には作るのが好きで。ここで働いてみたいなと思っていたら、みんな話しやすさとか、人柄が良かったので続いています」

その横で機械を稼働させていたのは、工場長の西本さん。家具作りに携わって35年というが、実は飽き性という。

「毎回作るのが違うから、難しいところもあるけど飽きずに続けられるかなって思います。どんな仕事でも一緒でしょうけど、やっぱり日々勉強とは思います。これができれば終わり、っていうのがないから日々勉強になりますね」

イデアの特徴は、納期や大まかな工程は決められていても、段取りや作業内容、作り方はある程度自分で考えて進めていけるところ。自由さがある分、スケジュール管理の負担は感じないのだろうか。

「もちろん、責任があります。でもどうしても予定通りに行かない時はみんなに相談します。意見し合おうという空気があるので、率直に相談できます。会社として一番いい結果を出すためにも、一回自分の作業を止めて手伝おうとか、お互い様で」

頭の中で組み立てたことがバチッと決まる快感

続いて向かいの工場で大きな板を加工していたのは、プロダクトマネージャーの梅本さん。

「新しく作る物や今まであまり経験のない物をどう作っていくか。お客さんや設計士の方と一緒に考えて作り方を決めていくというのが僕の主な役割です」

梅本さんも、幼い頃からものづくりが遊びだったそう。

「ミニ四駆の世代なのですが、それを走らせるコースが高くて手に入らないので、自分で段ボールで作ったり、あとはラジコンやモデルガンをいじって遊んだりしてました」

機械メーカー、家具メーカーを経て、イデアに入社して10年ほどになるというが、入社の決め手は何だったのだろうか。

「仕事内容はわかってましたので、面接に来た時の雰囲気ですね。わりと自分と近い世代の人がいて、最初見た雰囲気が非常に居心地良さそうだなと思い、こちらに決めました」

実際、入ってみると人間関係は思った以上に過ごしやすかったとのこと。日々の業務の中でやりがいを感じる時を聞いてみた。

「頭の中で組み立てたことを実践し、最後にバチッと決まった時ですね。そのときはもうしてやった!というのがありますね」

今後は機械も新しいものを導入していく予定があるとのことで、新たな作り方、組み立て方の発見が梅本さんの仕事になりそうだ。

家具屋あるある

工場から一転、事務所の奥でいくつものモニターに囲まれて仕事をしているのは設計主任の上水流さん。

木工の訓練校を経たものの、実際の仕事はイデアに入社してから教えてもらって覚えたことが多いという。

「家具といえば無垢を削り出して作る家具のイメージで、訓練校でもそれを習いました。実際そういった家具はほとんど個人の家具屋さんで作るものであり、イデアのような企業が作るオーダー家具とは棲み分けがされています」

自分で考えながら作ったものが現場でピタリと収まる魅力に取り憑かれ、その技術を磨くことに夢中になった。そんな折、社長から図面を描く仕事を打診される。当時、社長一人が図面を描いていたが、事業が拡大するにつれ限界がきていた。適任は誰かと社長が熟考した末の大抜擢だった。

「最初は嫌だ、作りたくてこの会社に入ったのにと抵抗していました。それで最初は両方していたのですが、だんだんと図面の割合が増えてきて、気づいたら図面だけに。でも、それはそれで楽しくなりました」

図面を描く際も現場を見てから考えて描く。それが現場でピタッと収まると気持ちがいい。収まるように考えるプロセスが楽しみであり、醍醐味だという。

「収まるように新しい知識を入れたり、技術を上げていくのが楽しいです。ちょっと無茶を言われた方が楽しいくらい。日常でもお店に行くとつい収まってるものをジッと見つめてるし、触って歩いたりしてしまいます。家具屋あるあるなのかもしれません」

イキイキと話してくれる上水流さんだが、実は人と喋ったり、コミュニケーションをとったりするのは苦手。単独行動で、ずっと虫を探しているような子どもだったそう。

「自分が話すのが得意じゃないからこそ、相手の話を聞いてこういう感じかなというのをとりあえず図面に落とします。形があると話をしやすいので」

図面を描く仕事は現場への出張、設計側の話がまとまらないと描けないなど、自分の努力ではコントロールし難い部分がある。

「ゆくゆくはオリジナル家具も作ってみたいです。僕が設計したものを図面にして、職人に作ってもらって販売する。もちろん売れるものを作らないといけないですが、いいものを作れば売れていくはずです」

実は、上水流さんの目標を知った社長のアイデアで、毎年開催される家具の一大イベント『大川木工まつり』への出展が決まった。普段、一般ユーザーの反応を直接確かめられる機会はあまりないので、腕試しができる。利益目的だけじゃない、家具屋になりたかった本当の理由を追い求められるチャンスが、ここにはあるのだ。

シャッター屋が家具屋に

黙々と、そしてイキイキと働く環境はどのように醸成されていったのだろうか。権藤社長に話を聞いた。

「義理の父の義理の父、つまり血の繋がっていない祖父の友達が、ここで一人で家具屋をしていたと聞いています。その友達が家具屋をやめることになり、シャッター屋をしていた祖父に声がかかったそうです」

当初は事業がうまくいかず、埼玉で働いていた娘とその夫を呼び戻して立て直していった。学校で使う学習机や椅子が手作りの時代だったので、入札で仕事を手に入れなんとか軌道に乗せた。難易度の高い店舗用造作物を作れる職人が入ってくるのと時を同じくしてバブル経済が訪れ、会社は成長してゆく。

しかし、バブルが弾けると業界全体が厳しい時代に。無論、イデアも例外ではなかった。そんなイデアに権藤社長は電器屋の営業職から転職する。

「電器屋では毎月初めにノルマが出され、最後の5日に達成していなかったら名前を貼り出され、売るまで帰ってくるなと。夜中12時過ぎまで会社、家にも戻ってこれないような生活でした」

今となってはその経験も活かされているというが、やはり大変で「やめよう」と思っている時に、前社長が引き取ってくれたという。80歳くらいの職人について図面や営業を覚えていったが、入社から1年後、その職人が引退。

「1年じゃ何もわからず打ち合わせや見積もりをやっていたので、お客さんから怒られたり、厳しいことを言われながら仕事を覚えていきました。それもあってノウハウとかを覚えるのが早かった」

図面は製図版を使って描くのが主流だった時代。権藤社長は工業高校出身ではないので、線を均一に引くだけでも難しかった。そんな時に知り合いの家具屋がCADというものがあるといってフロッピーディスクを貸してくれた。

「CADの方がいいと思って、使い方を勉強して製図版を捨てました」

大手家具屋の北九州支店からの依頼一つひとつに丁寧に応えていったところ、エリア外の支店からも仕事を頼まれるようになり、両社ともに成長してゆく。

「たとえばホテルの客室の家具のように、同じものを大量生産となると中国製品の方が断然安い。だけど、大きくて難しいとか、施設の顔となる受付カウンターなどはこちらに回ってきます」

ただ、イデアに仕事が回ってくるのは、難易度の高い物が作れるからだけではないという。

「現場で組み立てやすいように、部品の場所や組み立て方を手書きの図面と説明書を併せて入れたところ、現場の大工さんがイデアの家具は仕事がしやすいととても喜んでくれて。それがまた次の仕事につながるという循環が起きています」

お客さんが喜ぶにはどうしたらいいか?

説明書を入れるというアイデアを発案したのは、ゼネラルマネージャーの下木さん。

「きっかけはイケアや無印の家具を買った時に付いてくる説明書のわかりやすさにびっくりして。普通の人が組み立てられるのは説明書のおかげ。これは自分の仕事にも役に立つのではと始めました」

お客さんのことを考えたらこれがベストと思った下木さんは、自らの判断で説明書を作って「入れておきました」と社長に事後報告。社長も「これは絶対いいよね」と敢行したところ、後日お客さんから「説明書がついていたおかげで現場がうまくいきました」とメールがあったという。

この取り組みは今、下木さんを中心に全社をあげて行っている。

「説明書を作るのはあくまでも手段であって、目的はお客さんに喜んでもらうことというのを理解してほしいと思っています」

下木さんは大学のデザイン系の学科を卒業後、地場の家具屋に就職したが仕事は家具の配達ばかり。何よりその会社には、設計やデザインの仕事があまりないことに気づいた。

「自分の無知もあって、入ってから思ってたのと違うと。またデザインよりも作る方が楽しいんじゃないかと思ったんです」

考えてみれば幼い頃から、ブロックやプラモデルなど手先を使うような遊び、作るという行為が好きだったという。原点を振り返った下木さんは会社を退社し、フリーターをしながらお金を貯めて木工の学校で2年間学んだ。

新しい家具屋のあり方を目指して

大阪の家具屋で働いた後、イデアに転職。現在は家具作りをベースにしつつ、ゼネラルマネージャーとして新しい機械やツール導入の検討や環境整備、情報発信など会社全体の発展を見据えた活動の中心を担う。その一つが時代に合った職人の働き方、育て方への挑戦だ。

「家具製造業界では、とにかく黙って作れ、技術は盗め、という雰囲気で、育てる環境が一切ありませんでした。たまたま育った人がすごいという。それじゃあ業界として限界じゃないかと。精神論でなく、ちゃんと受け入れて育成するという仕組みも必要なんじゃないか、できるんじゃないかと感じて、試行錯誤中です」

現在構想中なのが、スターターキットの支給と育成プラン。職人にとって、道具は自分の身体の一部といっても過言ではない。それゆえ従来は自分で必要な物を考え、自分に合った物を買って揃えていくというのが一般的。とはいえ、金槌ひとつとっても途方もない種類がある。

「スターターキットとして最初に最低限必要な道具を渡し、その後成長に合わせて必要な道具のリストを示して、一緒に揃えていくという形を考えています」

そしてなるべく早く、作る楽しさを経験してもらいたいという。

「この業界には見習いとして、しばらくは掃除や雑用ばかりするという習慣も少し残っています。もちろん掃除を通して会社のどこに何があるかを理解するという良さもありますが、時間がもったいないと。そういうのは1週間程度にして、実務にかかってもらいたいと考えています」

入社からの日数に合わせて、どんな物を作れることを目標にしたら良いのか。何より本人が成長を感じられるように。具体事例を交えながら現在育成プランを作っている。

準備中の育成プランのイメージ図

「入社から半年後、1年後、2年後…と身につけておきたいレベルを事前に示したり、評価できる機会を作ろうと準備しています。自分の現在の仕事の修練具合がわかれば安心するし、どこをどう改善したら良いかわかる。こちらのフォローの仕方も見えてきます」

既存にとらわれず良いものは積極的に取り入れる

会社全体として、DXにも積極的に取り組んでいる。一つの物を作るだけでも図面の数は膨大。変更があれば人数分再印刷しなければならないため、タブレット端末とオリジナルアプリの導入でペーパーレス化を図る。それ以上にアプリ導入で期待しているのは、コミュニケーションの円滑化。

「作業の進捗管理は朝のミーティングで口頭チェックするものの、みんなに任せている部分が大きい。いい時はいいが、一回ガタガタとなると他も引っ張られる。手伝うにしても納期の1日前なのか1週間前なのかで戦略が変わるので、情報共有の仕組みを作って見落としを防ぐ。その方が本人も気が楽だし、周りの人も気づきやすい」

もちろん、自分で考えて責任を持って取り組むことが大前提であるし、その楽しさを知っているのがイデアの職人集団。

「言われたことをピタッと終わらせるかっこよさみたいな、職人のプライドがあります。基本的に『君にこれ任せるよ』という方針の会社なので、それを結果にするのが仕事だし、やりがいだと感じています」

ここ数年は、大型の設備投資にも力を入れる。従来の機械だと手動で設定するため、ミリ単位の調整が難しかったのが、デジタル制御の新型機械を導入することで、より正確により早く、何度でも同じ木材を切り出すことができるようになった。作業効率が上がるだけでなく、さらに高品質でデザイン性の高い家具も作ることができる。

「昔の機械は刃が剥き出しになっているなど、安全性への意識が低かったのですが、新しい機械はカバーがつけられていたりと考慮されているので、安心して作業することができます」

イデアの先進的な取り組みは、約5年前の休日カレンダー導入に始まる。1年分の休日を示すことで、連休に併せて有給を取って旅行に行くなど計画を立てやすいようにしている。昨年1年はカレンダー通りに休めたという。

「社長が年間を通して仕事が平準化されるように、工程をしっかり組んでくれているから可能だと思います。家族がいるので、予定が立てやすいところは大きいです。さらに納期を意識して仕事の段取りを一層考えるきっかけにもなったので、それも含めていい取り組みだと思います」

ノルマなし、休日出勤なしの理由

綿密に仕事の計画を行い、休日出勤や残業を減らしてきたことについて、再び権藤社長に話を聞いた。

「工場が住宅地にあり、クレームが出てはいけないので19時以降に仕事をすることはめったにないです。というより長時間働いても効率は悪くなり、怪我のリスクも高くなる。残業代も1.25倍かかるので、経営上のメリットもない」

目先の利益に惑わされずに、最終的に会社として最大の結果が出るようにするのが、経営者の仕事と考える。だからノルマを課しているのは、社長自身だけ。

「従業員にノルマがあったら機械の取り合いなど協力し合わなくなる。家具作りは大きな物を移動したり、ひっくり返したり、一人でできない作業がたくさんある。みんなで頑張って売上を上げてこれくらい賞与を出せるようにしたい、と伝えることもある」

コロナ禍の苦境を経て、2期連続で過去最高収益を更新中。婚礼用の家具が使われなくなり、海外の安い家具に押されて既製品を卸すビジネスモデルの家具屋が苦戦する中、イデアの工場は稼働率マックスだ。

「限界と思っても、ちょっと頑張って超えてみる。超えられれば、それが当たり前になる。するともう一つ高い目標ができて…と繰り返すことが自分のスキルアップになり、会社の売上や自身の収入アップにつながる。それがまたモチベーションにつながるといい」

ーー少し動けば、景色が変わる

「一つの物事も真横、正面と見方を変えると見えるものが違う。仕事が多くて苦しいと思う時も、ここを変えたらできるんじゃないかと見方を変えると頑張れる。人間関係も同じで、一見嫌な面も見方を変えるといい部分だったりする」

社長がふと口にした言葉そのものが、まさに違う景色を見せてくれるようだった。

(取材日2024/1/23 阿部由貴)


企業情報

会社名株式会社idea
設立1975年
代表者名代表取締役 権藤 基喜
事業内容オーダー家具の設計・施工、店舗用家具製作
所在地

福岡県北九州市小倉北区熊本3丁目15-21

電話番号093-931-2760
ホームページhttp://www.kabuidea.com/index.html

採用担当 下木(しもき)さんより

家具のパーツではなく、一つの製品を作り上げられるのがイデアで家具づくりをする楽しさだと思っています。育成プランは試行錯誤中で、お互い苦労することもあるかもしれません。それも含めてちゃんと話し合っていきたいと思うので、まずは一度お問い合わせください。