建設業者が公共工事を直接請け負うために、必ず受けなければならない「経営事項審査」。2種類ある審査のうち最初に受けなければならないのが、Y点が算出される「経営状況分析」。
経営状況分析は、国土交通省が認可した登録経営状況分析機関に依頼しなければならない。分析機関の数は全国でわずか10社(執筆時点)。
登録経営状況分析機関への申請料は1万数千円程度のところが多く、つい金額の安さに意識が行きがち。しかし、どこを選ぶかによって長期的に経営に与える影響は大きいケースがある。
建設業者はどのような視点で、登録経営状況分析機関を選べば良いのか。
そのヒントを探るべく、全国10社ある登録分析機関の一つ、株式会社NKB(福岡県北九州市)の藤井社長に話を聞いた。
代表取締役:藤井清二さん
経営が安定し、法改正への対応が早い分析機関を選ぶ
登録経営状況分析機関の誕生は、Y点分析機関が民間へ解放された2004年に遡る。国土交通大臣登録11号として許可を受けたのが株式会社NKB(当時 株式会社日本建設業経営分析センター)。藤井社長曰く、
「最初は17、18社あったのが今は10社になりました。審査は国土交通省指定の様式に沿って行われるので、審査をする能力自体はあったと思います。ただ、審査を出してくれるお客さんが取れなくて廃業したケースが多いのではないでしょうか」
許可制の仕事とはいえ、申請を出す建設業者が継続的にいないと事業の存続もままならない。自社が依頼した分析機関が途中で廃業するリスクはなるべく避けたい。そのためにも分析機関の経営状況も確認したいところ。
「NKBは、福岡県の経営審査の仕事も入札で取って行っています。福岡県は全国一建設業者の割合が多い県とも言われ、特にここ北九州市は建設業の街とも言われるほどです」
書類の受付、再チェックなど、年間8,000件にも及ぶという県の審査ピーク時には広い会議室が段ボールの山になるという。
「経営状況分析を含む経営事項審査は年に1回、必ず決算後に書き換えと申請が必要になります。その間、毎年のようにどんどん法律が変わるので、情報をアップデートしないとついていけなくなります」
経営状況分析を依頼する場合、依頼先が常に最新情報に対応しているかというのも重要な確認事項になりそうだ。
全国10社の中でNKBが選ばれる理由
NKBには今、東北から沖縄まで日本全国の建設業者から経営状況分析の依頼がくる。その理由の一つが、藤井社長自身が行政書士資格を持ち、特に建設業関連の許可申請に明るいことが挙げられる。
「建設業全般が分かっているので、信頼して依頼していただけている面はあります。また建設業関連の許可申請に関する実績を頼って、行政書士の方がアドバイスを求めて来られることもあり、それによりご縁が広がることもあります」
同業者に手の内を明かすことに抵抗はないのか。
「守秘義務があるから言えること、言えないこともあります。ただ、小さな世界で争っても仕方がありません。どうしたらその建設会社がうまく伸びていくか。法律を守りながら、どうしたら壁を突破してあげられるか。それを考えサポートしていくのが大切だと思っています」
建設環境を含めてサポートしていきたい…そんな藤井社長の思いを体現したのが、数千万円を投資して開発したソフト「NKB太郎(https://www.e-nkb.jp/)」。建設業関係全書式作成サービスである。
経営状況分析はもちろん、経営事項審査で使用するP点の算出に必要なX、W、Zなどの点数シミュレーション、審査書類一式の作成がこのソフト一つでできる。その他、建設業の各種許可申請の書類作成から、電子申請にも対応しているという。
巨額の開発費用と時間をかけながら、建設会社であれば無償で使える。その理由は何か。
「ソフト(NKB太郎)を無償で一般公開することによってユーザーが増えます。ソフトを通してお付き合いをしながら、お役に立てるタイミングでその他の許可申請や経営のアドバイザーになれればいい」
確かな経営状況分析を支えるサポート体制
NKBのこうした細やかなサポートを支えているのが、メンバーの面々だ。現場を取り仕切る向山取締役に話を聞いた。
「経営状況分析は、書類の正しさが建設会社の経営事項審査の結果に影響する非常に重要な仕事です。書類にミスや抜けがあれば建設会社の評価が下がり、入札の参加資格に関わります。そのため、私たちがきちんと書類にミスがないか見られるかが大事になります」
経営状況分析の依頼が入ると一社につき一人の担当者をつけ、さらに別の人間が内容の確認をするなど、チェック体制を徹底する。建設会社側が用意しなければならない必要書類、申請書への記入など、不明点があれば電話での問い合わせも受け付ける。
「どの書類が必要か? 申請書にどの数字を入れればいいのか? どこに入力すればいいのか? といった質問は多いですね。逆に記入内容に間違いがあれば、指摘して書類の正確性を高めます」
責任の重い仕事だからこそミスは許されない。会社としてどのようなことに取り組んでいるか聞くと、「働く環境の整備」と「NKB太郎」という2つのポイントが見えてきた。
働く環境を整備することでいい仕事を提供する
「スタッフの働き方を守ることが大切です。専門職ごとにチームに分かれ、チーム内で進捗を常に共有しています。期限厳守の仕事だからこそ、助け合う環境づくりを行い、会社全体として仕事の質を落とさないようにしています」
社員と積極的にコミュニケーションを取り、各人の状況によって出社時間に幅を持たせるなど改革をおこなってきた。そうした背景には、取締役自らの経験がある。
「私は子育て中にこの仕事を始めました。今、働いてくれている方にも子育て中の方が多いです。子育て中の朝はどうしてもバタバタしますが、早い出社時間で焦って事故を起こしてほしくない。そういう思いから、出社時間を自分で決める働き方に変えました」
驚くことにタイムカードもないという。しかし、ただ自由というわけではない。
「なあなあにするのとは違います。自分で決めた時間を守り、果たすべき仕事を行うこと、期限を守ることは当然です。その前提の上で、誰だっていつ休みが必要になるかわかりません。そんな時に“お互い様”という気持ちで助け合える環境を作っておくことが、結果的に良い仕事につながります」
社長と社員との橋渡し役として、必要なことは社長に提案する。それはソフト面に限らない。5年前の会社移転時に、おしゃれな壁紙、過ごしやすい休憩スペースなども導入した。
「風通しの良い環境、いい雰囲気で仕事ができることで、心に余裕が持てます。余裕があればミスが少なくなりますし、誰かのミスにも気づけます。さらにお客様に提案する時間的、精神的余裕が生まれる結果、お客様にいい仕事が提供できると考えています」
NKB太郎の活用でお客様の手間を最小限に
「当社のソフトを使っていただいていたら、経営状況分析の入力時に分からないことがあっても、電話口で同じ画面を見ながらアドバイスすることができます。そうすればミスの削減、時間短縮になるので、お客様にとっても私たちにとってもいいことです」
ソフトの評判は上々で、一度使うと「使いやすかった」「わかりやすかった」という声が届くという。NKB太郎はインストール不要で、パソコンとインターネットさえあれば使えるクラウドソフト仕様。
会社の多数のパソコンにインストールしたり、バージョンアップしたり、パソコンを変えるたびの手間や混乱もなくて済む。出先でも使えるから、例えば申請を依頼する行政書士と打ち合わせの場で数字を入力しながら議論する、といった使い方もできる。
NKB太郎はリリースしてまだ2年ほどということもあり、経営状況分析を依頼する建設会社の中にはNKB太郎の存在を知らない会社も多い。
「経営状況分析の依頼を受けて、申請や入力方法がわからなくて問い合わせをして来られることがあります。その際『ソフトを使いませんか?』をNKB太郎をご案内します。分析がきっかけで許可申請等の依頼を頂く時も、ソフトをご利用いただくことでより早く、正確に、安く提供できるようにしています」
課題は別ソフトを使っているケース。
「NKB太郎に乗り換える際に、過去3年分のデータを入力してもらう必要があります。最初だけ大変ですが、しっかりサポートしてスムーズに乗り換えられるようにしたいです」
建設業者の電子化から経営までをサポート
そもそもなぜ、このタイミングでオリジナルソフトの開発に着手したのか。再び藤井社長に話を聞いた。
「今、国が電子申請を打ち出しており、実際今年(令和5年)から稼働し始めました。電子申請の場合、より資料をきちっと作っていないと疑義が出ます。差し戻され、書類の差し替えが必要になれば評価は下がりますし、余計な時間的コスト、手間がかかります」
とはいえ、建設業はまだまだ電子化に対応できていない会社も多い。
「書類を手書きで作っている会社も多いです。経営者や技術者が70代という会社も少なくない。若い人がいない、電子化したくでもできないと困っている建設会社をサポートしてあげられるよう、ものづくり補助金を活用して新たにソフトを開発しました」
藤井社長の肌感覚として、電子化に対応している会社は北九州市で5、6割程度、福岡市で3〜4割程度という。将来的にほぼ全てが電子化されると考えて、動き出している。
「建設業は『現場作業+書類作成』をセットでできてお金になる仕事です。電子化により書類作成の評価基準も厳しくなっており、そんな時代についていけない建設会社は今後経営が厳しくなります。いつまでも手書きではダメですよ、という啓蒙活動をしつつ、電子化の対応をサポートをしたいですね」
【よくある事例】書類作成の担当者が辞めてパニック
最近増えているケースの一つに、書類作成の担当者(事務員)が辞めて困った! というのがあるという。書類作成を任せきっていた上、年に1回の作業なので後任が経験不足であったり、そもそも引き継ぎ事項から漏れていることも多い。藤井社長曰く、担当者が辞めても混乱を防ぐ対象法は2つある。
「二人体制にするか、外注するか」
会社の規模にもよるが、担当者を二人体制にするには当然人件費がかかる。となると外注が現実的だが、行政書士などの専門職に依頼すればかかるであろう年間20万円ほどの手数料をすぐに用意するのが難しいケースもあるかもしれない。
NKB太郎を使えば、経営状況分析はもちろん、各種許可申請等の電子申請も少ない負担でできる。多忙で入力の時間が取れない経営者やパソコン操作に不慣れな場合は、安価で入力を代行してくれる業者を紹介することもできる。建設業者にとっては結果的に、コスト削減、経営改善につながる。
ソフトの無償提供、手厚いサポート。藤井社長が丁寧に顧客に向き合うのは危機感からだ。
「AI時代になったらコンサルティングができないと生き残れません。書類作成だけなら誰でもできる。だから建設業のお困りごとを深く理解し、法律や規制の知識も駆使して、そこを突破してあげられるのがNKBの強みです」
技術者のキャリアアップもサポートする時代へ
新たな建設業法上の規則や電子化に伴う変化も見据えて、技術者のキャリアアップのサポートも考えている。
「今後、技術者情報の電子登録が必須になってきます。ある技術者がどんな現場で何時間、どんな仕事に従事したというデータを登録するのです。それによって技術者はどんな経験、能力があるかの客観的証明になり、キャリアアップに役立ちます」
技術者のキャリアが電子化されると、建設会社が行わなければならない各種許可の電子申請にリンクしてくると考える。
「建設会社の納税データと、会社が抱える技術者のデータが一元管理されることで、許可申請するための要件に合致しているか一目でわかるようになります。要件に合致していればそのまま電子申請できるし、技術者をきちんと登録することで審査のプラスになる、といった未来も考えられるのではないでしょうか」
こうした法改正、電子化という時流を読み、建設会社と技術者のキャリアアップを含めてサポートしていきたいという。
「(経営者として)法律が変わっても生き残れるように考えなければなりません。ピンチもあるけど、その分チャンスもあると思っています。自分たちからもっと外に出て行って、今までの顧客に対してはもちろん、新しいお客様もサポートできるようにと考えています」
将来的にはシステム会社も置きたいという。
「お客さんのシステムを自社で対応できるように。そういうことが必要な時代が来ると思っています。お客さんのことを考えて社会貢献することが大事なんです」
(取材日2023/5/29 阿部由貴)
企業情報
会社名 | 株式会社NKB(エヌ・ケイ・ビー) |
設立 | 2004年 |
代表者名 | 代表取締役 藤井清二 |
事業内容 | 国土交通大臣認可 登録経営状況分析機関第11号 |
所在地 | 〒802-0011 |
電話番号 | 093-982-3800 |
ホームページ | http://www.nkb-nkb.com/ |
担当より
建設業関係全書式作成サービス「NKB太郎」はこちらより(https://www.e-nkb.jp/)無料でお使いいただけます。経営状況分析、その他建設業に係る許認可申請、電子化など経営に関するお悩みがあればご相談ください。